最高裁判所第一小法廷 昭和40年(あ)2241号 決定 1966年4月14日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人西畑肇の上告趣意は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、上告適法の理由に当らない。(なお、所論の点に関する原判決の判断は、相当である。)。
よつて、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。(岩田誠 入江俊郎 長部謹吾 松田二郎)
(参考 原判決の判断)
原判決挙示の関係証拠によると、原判示第一事実の日時場所において、長谷川史郎、堀内貞夫両巡査が警邏中、亀田倍五郎が日本刀の仕込杖を所持していたことから、同人を銃砲刀剣類等所持取締法違反罪の現行犯人として逮捕しようとしたが、そのとき同人の傍に寄りかかつてきた黒川秀男が同人から何物かを手渡しされている気配を察知し、堀内巡査において右両名の間に割込んだところ、黒川の腹のあたりから拳銃が落ちてきたので、同人をも同違反罪の現行犯人として逮捕しようとしたところ、これを免れようとして被告人および黒川等から原判示の暴行をうけたことが認められる。そして黒川も同違反罪を犯したものとして起訴せられたが、原審において無罪の判決を言渡され右判決が確定したことも記録上明らかである。ところで公務執行妨害罪が成立するには公務員の職務行為が適法であることを要するのは所論のとおりであるが、職務行為の適否は事後的に純客観的な立場から判断されるべきでなく、行為当時の状況にもとづいて客観的、合理的に判断さるべきであつて、前段認定のごとき状況の下においては、たとえ黒川の前示所持が同法違反罪の構成要件に該当せずとして事後的に裁判所により無罪の判断をうけたとしても、その当時の状況としては黒川の右挙動は客観的にみて同法違反罪の現行犯人と認められる十分な理由があるものと認められるから、右両巡査が黒川を逮捕しようとした職務行為は適法であると解するのが相当であり、これを急迫不正の侵害であるとする所論はとるをえない。